歌舞伎「義経千本桜」。平安末期のヒーロー源義経と、恋人の白拍子・静御前の悲劇を知らない者はいない。
その舞台でもある吉野は、日本人なら一生に一度は行きたい桜の名所だ。
私は吉野が大好きで何度か訪れている。観光客の居ない時期には殆どの店が閉まり、寂れているが、それでも訪れたい魅力が吉野にはある。
午後の電車で到着したが、吉野には朝に来たい。桜の華やかさと儚さは、朝の涼しげな光に映える。(夕方の黄色い光では美しさは5割減だ)
また、午後には店が閉まっている。名物の吉野葛も売り切れで、17時にはほぼ全ての店が閉まる。(駅前の土産屋は18時半でも開いていた)
(なお、帰りの特急券はあらかじめweb予約しておこう。桜の季節は売り切れて当日には買えない。)(また吉野町にはATMが無く、クレジットカードも使えない。現金を多めに持っていこう。)
さて、駅前の土産屋を通りかかる。冷えた地ビールやソフトクリームを売っている。私は近藤の自家製さくらソフトが好きだ。ミルキーさにハマってしまい、1日に2つ食べたこともある。
ケーブルカーもあるが、初めて吉野山に来るなら歩いて登るのも良い。階段の上に咲く幣掛桜に目を奪われたら、吉野体験の始まりだ。坂を登りながら山々や枝垂れ桜に見入っていると、ここが俗世間から離れた「吉野の里」だと実感する。
山上の路面店では山栗や干し柿など、田舎の懐かしい食べ物が売ってある。私は玉こんにゃくをよく食べる。安くて味がしみしみで美味い。
他にも土産としてちりめん山椒や桜のお菓子なども美味い。今回は風味のいい葉唐辛子を購入。(いろいろ試食・試飲可能だ)
(後日注:葉唐辛子の佃煮は、今まで食べたご飯のお供の中で一番美味かった)
頂上に近づくと、大きな銅製の鳥居が見えてくる。この鳥居は俗世との結界だ。ここから上は修験道の聖域なのである。(なんとも中二心をくすぐられる世界観。)初めて吉野に来たときはこの荘厳さに圧倒された。
金峯山寺を過ぎ、店が立ち並ぶ中心地にある吉水神社に入ると、あの千本桜を一望できる。
正直なところ、桜を見たいだけなら吉野はおすすめしない。もっと綺麗で華やかな場所は沢山ある。桜目当てに行くと地味な山だとがっかりするだろう。
「吉野の里に降れる白雪」という百人一首にもあるように、吉野は元々桜の名所というより、雪の名所だ。
決して華やかな土地ではない。寂れているとも言えるほど、下界と隔絶された空間。ゆったり流れる時間と、静けさを味わう場所なのだ。柔らかく差し込む光や、鳥のさえずり、広大な山の風景に胸を打たれる感性の人は、ぜひ吉野を訪れてほしい。
さて、とはいえ観光旅行で外せないのはグルメ。おすすめは吉野本葛の葛切りだ。賞味期限10分で有名な「中井春風堂」はなかなか入れない。(朝には予約で埋まっているし、前日予約も吉野山の宿に泊まる人だけが可能。営業していない日もよくある)
入りやすい「芳魂庵」さんにいつもお世話になっている。本葛のシコシコむちむちした食感が楽しめる太めの葛切りが好みだ。
今回は品切れだったので、近くの「八十吉」さんにお邪魔した。「吉野天人」という名の葛切りは、天女の羽衣のように薄く切られている。太めの葛切りが好みなので物足りないかと思ったが、添えられた小さな丸い葛菓子を食べて驚いた。
今までも本葛専門店で似たような葛菓子を何度か買ってきたが、このふんわりほどける食感の滑らかさは他に無かった。思わずお土産にいくつか購入した。(作りたてなのか気分の問題か、店で提供されているものが一番美味しかった気がする。それでも某有名店の1/2以下の値段で本葛&和三盆が買えるのはありがたい。)
金峯山寺について。早朝勤行にも参加したが、個人的に推したいのは正午に行われる「護摩供」だ。一度チラリと見たが、あの『鬼滅の刃』の「ヒノカミ神楽」のような雰囲気に、テンションMAXを禁じ得なかった。(もっとこじんまりとしていて踊り等は無いのだが)
燃え上がる炎をひたすら眺めていると、何か大切なものを思い出せる気がしてくる。火は何十万年も昔から人類の守り神だ。煩悩を焼くと言われる炎を、見ていて厳かになる気持ちは本能に刻まれているのかもしれない。
吉野に来るたび、この土地にもう一度来たいと思う。上千本や奥千本、芭蕉も訪れた西行法師の庵にも足を運びたい。
吉野にいつ来ても、心が浄化されるような、心が無になる感覚がある。歩いているうちに、流れる水のような透きとおった気持ちになっていくのだ。
気のせいかと不思議に思っていたが、以下の情報を駅掲示板で見て、パワースポットは実在するかもしれないと感じた。
〈吉野山は日本独自の山岳宗教「修験道」の二大霊場であり、古代より「聖山」とされてきた。そこでは桜は「聖木・神木」だという。〉
吉野での花見にはそんなパワースポット的な意味合いもあるのかもしれない。山全体が世界遺産なのは伊達じゃないようだ。
いつか旅で、吉野から「世界一長いバス路線」に乗り、熊野古道を歩いてもう一つの二大霊場、熊野三山を訪れたい。そのルート上にある平家落人伝説の天空の里、「果無集落」にも惹かれている。
春の山は朝晩冷えるので、暖かい上着を持って行こう。基本的に坂道なのでスニーカーがおすすめだ。
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